乾友紀子選手のテクニカルルーティーンのテーマ
タイトル:「水のゆくえ」
振付け:舘形比呂一/井村雅代
作曲:東儀秀樹
乾友紀子選手のテクニカルルーティーンのあらすじ(日本語)
一滴の水はやがてせせらぎとなり小川となり、そして大河へ。大河はやがて大海原へと広がってゆく。穏やかな海もあれば荒れ狂う荒波もある。
そんな一滴の水からはじまる水の物語「水のゆくえ」は、まるで人生そのものを感じさせる。
人はひとりで生まれ、そして多くの人々との係わりの中で成長し、ひとりの人間として人生の荒波の中を生きてゆく。流れゆく時の中で、限りある時間を精一杯生きるその姿が何とも尊く輝かしい。そんな「輝き」を乾友紀子が演じ泳ぎます。
乾友紀子選手のテクニカルルーティーンのあらすじ(英語)
Title:「The life of a droplet」
<Description>
A water drop merges into a stream, forward to the large river, and ends in the ocean.
The ocean could be calm or stormy.
A water drop reveals a person’s life. People are born alone and communicate with others and are raised. People have suffered times and good times. However, people must live with it whatever happens. Being a human living life is challenging, but it makes glorious of people.
Yukiko will express the glory of humans in life in her routine.
乾友紀子選手のテクニカルルーティーンの解説
上の図は、乾友紀子選手の演技をマップ化したものです。
まず、試合に使用しているプールは、50m×25メートルのプールで、競泳の試合では10コースのプールになります。そのプールを30mのところまでを競技エリアとし、Artistic Swimmingでは使用しています。プールサイドの両側に、EXC審判(5名)とAI審判(5名)がちりばめられて採点を行っています。審判が座る審判台はwalk-on deckから10mのラインぐらいから設置されていることが多いです。審判に加えTechnical controller(Soloでは3名)が技を正確に申告通り行うことができているかをチェックしています。Technical controllerの席の横には、審議になった際に利用するビデオモニターが設置されています。
紺色の実線の矢印の部分は、Transitionと言って、泳いで移動している部分になります。泳いで移動と言っても、クロールや平泳ぎなどといった泳ぎではなく、さまざまなキックや手の搔きを利用して移動をしています。この部分では、ボディーブースと言って、水中からブワーッと一気に身体が飛び上がってくる技などもあり、表情や上半身の動作での表現力や振付けを楽しみにしていてください。
水色の点線の部分は、HYBRIDと呼ばれ様々な脚技を組み合わせた連続技が行われるところです。この部分の技に難易度(D・D)が設定されていて、各選手がさまざまな工夫をしてこれまでの大会で戦ってきたところです。
5カ所ある緑色の星マークは、ルールで定められた5つの規定要素です。各規定要素の連続分解図を以下に示します。
乾友紀子選手のテクニカルルーティーンのエレメンツ①(6″~10″)
このElements-1a(TRE-1a)は、乾友紀子選手の場合、飛び込んで1つ目に行う技になっています。
乾友紀子選手のテクニカルルーティーンのエレメンツ②(46″~50″)
このElements-5a(TRE-5a)は、乾友紀子選手のRoutineでは2つ目に披露する規定要素になっています。
乾友紀子選手のテクニカルルーティーンのエレメンツ③(56″~1’07″)
この技は乾選手の得意技だそうです。
このElements-2a(TRE-2a)は、乾友紀子選手のRoutineでは3つ目に披露する規定要素になっています。
乾友紀子選手のテクニカルルーティーンのエレメンツ④(1’14″~1’21″)
この技は、乾選手ちょっと苦手だそうです。
このElements-3(TRE-3)は、乾友紀子選手のRoutineでは4つ目に披露する規定要素になっています。
乾友紀子選手のテクニカルルーティーンのエレメンツ⑤(1’27″~1’36″)
このElements-4a(TRE-4a)は、乾友紀子選手のRoutineでは5つ目に披露する規定要素になっています。
乾友紀子選手本人のコメントによるテクニカルルーティーンの解説
ここからは、競技者である乾友紀子選手にインタビューしてどこよりも詳しいTechnical Routineの解説をお伝えしていこうと思います。
普段の練習をしている時や、実際の試合本番の時などは何を考えながら泳いでいるのか?泳いでいる時は何をイメージして、どういう気持ちで表現しているのか?規定要素の得意不得意はあるのか? 2分4秒の演技の中でどこに注目して演技を見てほしいのか?など本人にしかわからない部分を深掘りしていきます。
乾友紀子選手のテクニカルルーティーン陸上動作編
試合本番では名前と国をアナウンスされ、walk-on deckのど真ん中(左右はLEDモニターになっていることが多いです)から登場します。1歩目の動作を始めたときに会場の空気が乾友紀子選手のものになる感じを感じ取れるかと思います。
そこからは乾友紀子選手にくぎ付けになるでしょう。
そこから始まる陸上動作では1滴のしずくがしたたり落ちて流れていく様子を表現するところから演じ、観客の心をつかんでいきます。また、それと同時に両サイドに座っている審判員の目をしっかり見てアピールすることを意識しているとのことです。
ただ、内心は、「たゆたゆ」と波打つ日本舞踊的な振付の時にぐらついてしまわないかドキドキしながら演じているというのが本音だそうです。皆さんも私の陸上動作の最後の天を見上げる決めポーズがしっかりと決まるように、どうぞ一緒にドキドキしてください(笑)
乾友紀子選手のテクニカルルーティーン 飛び込み~1つ目のエレメンツまで編
飛び込んですぐに、バラクダスピン(規定要素:TRE-1aの技略名)をするという演技構成になっています。作戦的に、飛び込んだ後は浮力を利用しやすくいということがあり、この浮力のエネルギーを最大に利用して一気に高く浮き上がれるというメリットがあります。
また、このバラクダスピンは軸をまっすぐにするのが本当に難しい種目で、まっすぐに上がることができず倒れてしまう海外の選手も多くいます。そしてバラクダ(スラスト)のあと2周の回転を踵が浸かるまでに行わないといけないが、これがまた難しいそうです。
よくある失敗は2周回る前に踵が水に浸かってしまうということです。こうなってしまうと、技の完遂度として認定を受けられず、「失敗」という形になってしまいます。こうなるとその種目の得点は限りなく0点に近くなってしまいます。
こういった事態を防ぐために、毎練習念入りに感覚やそれを修正するための注意事項を確認しているそうです。もちろん試合のその当日も直前練習の出来によって意識する注意点は変わります。
World Cup FRANCE大会までは、2つ目にこのElementsをする構成にしていましたが、上記理由で意識しないといけないことがたくさんあり、ストレスになっていたそうなので、1つ目に取り入れる構成に変えたことで心配材料が一つ減ってストレスが大きく減ったそうです。
乾友紀子選手のテクニカルルーティーン HYBRID-1編
HYBRID-1は24秒間潜った状態で脚技を連続しているところに注目してほしいと話してくれています。
このHYBRIDは10点以上の難易度構成になっていて、回転は合計14周も回っています。
技の数で言うと18種類の技で構成されています。潜っている時間は24秒ですので、18個の技をしようと思うと約1.3秒に1つの技をしている計算になります。
これだけでもすごいことですが、乾友紀子選手がアピールしたいところは、ツイストやアンバランスツイストという技のところということで、18個の技の内14個の技がこの回転系の技になっています。縦や斜め、順方向・逆方向と様々な方向に回転技が組み込まれています。
ぜひ、何周回ったか数えてみてくださいとのことです。
乾友紀子選手のテクニカルルーティーン 2番目~3番目までのエレメンツ編
スプリット~ベントニー~1周スピン(規定要素:TRE-5a)は、スプリットブースの高さをとにかく狙っているそうです。10点満点が腋(ワキ)まで浮き出ることが基準なので、水着が全部出れば大成功です。
コンバインドスピン(規定要素:TRE-2a)は、「得意技なんです。」と乾友紀子選手が教えてくれました。「どうして?」と尋ねると、「私は、軸をまっすぐするとることが得意で、滑らかな回転が持ち味なんです。」と答えてくれました。
2022年6月にBudapestで開催された昨年の世界水泳選手権で、彼女の正確な技術に世界中の審判・コーチから称賛、拍手を受けたということがありました。世界も認める基本軸の正確さ、スピンの滑らかさが彼女の最大の武器ということなんでしょうね。
乾友紀子選手のテクニカルルーティーン Transition編
Elements(規定要素)のつなぎ目の部分は、Transitionと言う表現力などをアピールする箇所になります。Artistic Impressionの点数を稼ぐために、できるだけ多くの審判員とのアイコンタクトをとれるように意識して泳いでいるとのことです。
立ち泳ぎやボディーブーストなどで上半身を水上にできるだけ長く、できるだけ大きい面積で見せることで高得点につながるとされています。動きの流れや身体の末梢(頭の先や指先まで)までの動きの広がりや細かな動きで構成している表現力に注目して演技を見ていただけると嬉しいです。
乾友紀子選手のTechnical Routine 4番目~ 5番目までのエレメンツ編
オーロラ(規定要素:TRE-3)は、正直苦手だそうです。5つあるElementsの中で、毎日毎日1番練習していると思います。
乾友紀子選手は腰の柔軟性(腰が反りにくい)が硬いので、それが原因でパフォーマンス(点数)が下がらないように、いかに技術力(手の搔き方や水をとる量を変えてみたり)でカバーできるか毎日試行錯誤しているとのことです。
これは、上げている右脚がぶれないように1周回れれば大成功と思ってください。
そして、曲調が変わります。このRoutine構成の中でいよいよ一番盛り上がる場面に差し掛かります。
場面的には、「人の人生(一生)の中でいくつもの荒波を経験すると思います。その波に飲み込まれないように一生懸命書き分けて泳いでいるという情景のシーンです。」もちろんそういう風に演じているのですが、ここまで泳いできて体力的にRoutineで一番しんどい部分であり、正直にいうと身体だけではなく頭にも酸素が回っていない感じの状態で、本当はそこまで考えることが困難というのが本音で、ただただ、曲から遅れないように踏ん張って泳いでいる感じです。
意識しているというか、自分に言い聞かせていることは、この曲調が変わる泳ぎの部分で、自分的にはギアを1つ高く上げて、迫りくるクライマックスに向けてテンション最高潮に高めて泳いでいます。
フィッシュテール(規定要素TRE-4a)は、ルールブックで示されている既定の形(デザイン)を正確に見せることを意識しています。上げている左脚がぶれずに高く上がっていれば大成功です。お尻の水着が見えれば大大大成功です。
乾友紀子選手のテクニカルルーティーン HYBRID-2編
最後のHYBRIDは、「気合」だそうです。
乾友紀子選手曰く、正直ここは酸欠状態で泳いでいるので、足技の連続の構成がTechnical controllerに認定されるように正確に1つ1つやることだけを考えているとのことです。
特に、注意しないといけないのは回転数と、角度(脚)、進み(ボーナスの点数:TR)を意識しているそうです。
このLASTのHYBRIDも21秒以上潜って脚技の連続を畳みかけるように16種類の技をしています。そのうち得意な回転系の技は、14種類入っていて最後の最後まで回転し続ける構成になっています。約1.31秒に1回技を行っている計算になります。
ルール上、曲が鳴り終わるまでに申請した脚技を終わらなければなりません。ここからは、残された体力と対照的に時間との勝負が始まります。演技終盤ハラハラを共有しながらお楽しみください。
ラストは「ジャーン」の音で右手を高々上げるポーズで終わります。
ポーズをとった後、一度水の中に沈み込み、顔を上げて皆さまの方に手を振って演技が終了します。「最高の笑顔」で手を振って挨拶ができるようにしっかりと泳ぎ切りたいと思います。観客席から、テレビの前からたくさんの応援をよろしくお願いいたします。
乾友紀子選手の今シーズンのテクニカルルーティーンの変化
以下、World Cup 2023 #1(Canada:3月)・#2(France:5月)・#4(Spain:6月)で演技したTechnical Routineの動画です。 演技構成の変化が追えると思います。良ければご覧ください。
#1 CANADA Markham大会(3月)の映像
#2 FRANCE Montpellier大会(5月)の映像
#4 SPAIN Oviedo大会(6月)の映像
世界水泳 SOLO日本代表 乾友紀子選手のテクニカルルーティーンをどこよりも詳しく徹底解説のまとめ
世界水泳選手権 アーティスティックスイミング競技 SOLO種目日本代表 乾 友紀子選手のTechnicalルーティーンの演技内容についてどこよりも詳しくお伝えしてきました。
専門用語などもあり、難しい部分もありますが、過去のBLOG記事の「アーティスティックスイミングの新ルール」関連の記事や「乾友紀子選手の試合帯同記」関連記事をお読みいただけるとさらに深く知ることができると思います。
2023年7月14日から福岡で開催される世界選手権では「2連覇+2冠」を目標に出場します!
乾友紀子選手の出場予定は、
7月14日9:00~Solo Technical Routine予選→7月15日19:30~Solo Technical Routine決勝
7月17日9:00~Solo Free Routine予選→7月19日19:30~Solo Free Routine決勝
となっています!
是非、テレビ放送は「テレビ朝日系」で放送されますので、近くなりましたら番組表をご確認の上、ご覧いただけますと嬉しいです!
応援、よろしくお願いいたします。
今回の記事も最後までお読みいただきありがとうございました。
次回の記事も楽しみにしていただけると幸いです。
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