腰痛の病態について
『腰痛診療ガイドライン 2012』(初版)から大きく変わったことがあります。
腰痛診療ガイドライン 2012(初版)では腰痛を「特異的腰痛(原因が明らかなもの)」と「非特異的腰痛(原因が明らかでないもの)」の2つに大別され、特異的腰痛は15%、非特異的腰痛は85%と報告されていました。
しかし、近年発表された整形外科専門医による腰痛の原因を詳細に調査した報告によると、腰痛の原因の内訳は椎間関節性22%、筋・筋膜性18%、椎間板13%、狭窄症11%、椎間板ヘルニア7%、仙腸関節性6%などと報告されています。
約75%以上で診断が可能 であり、診断不明の「非特異的腰痛」は、逆に22%に過ぎなかったとされています。
改訂第2版腰痛診療ガイドライン2019で大きく変化したのはこの部分で、非特異的腰痛症は85%から約20%に減少しています。これは、医師の診断における原因分析の精密さが向上したことによるものと思われます。また、この診断分析技術はこの先さらに向上すると見込まれており、個々の腰痛の原因が解明されていくことと思われます。
私が行うことは大きく変わりませんが、原因の特定が詳細になればなるほど、その症状を引き出すポイントは絞られてくるので、評価(チェック)のやりやすさやチェック項目、施術がますます行いやすくなります。より高い施術効果を引き出し、その効果を持続するための運動指導の精度を引き続き高めていこうと思います。
腰痛の自然経過について
腰痛の自然経過については、研究によって対象とする腰痛の種類や治療介入の有無または内容が完全に一致していないなどの問題があり、まだ十分解明されていないと言われています。その中でも、腰痛の臨床経過に関する研究をまとめた2つの報告があります。
急性腰痛の自然経過
急性腰痛患者および慢性腰痛患者の痛みと日常生活制限の臨床経過を観察した研究で、計11,166 例の患者データの報告によると、急性腰痛患者の疼痛スコア(最大100)は、ベースライン平均52ポイントから最初の6週間後(1か月半後)で23ポイントと著明に改善がみられ、26 週後(約半年後)には12ポイント、52週後(1年後)には6ポイントとゆるやかに改善が続くと報告されています。
症状が出てから早期に適切な対処・指導を受けることで、1か月半後には症状が半減、さらにそれを継続することで半年後には症状がさらに半減、1年間継続することでさらに半減する経過をたどっていると読み取れます。
私の感覚では、比較的症状が軽い方は2週間程度で半減、さらに2週間後にはまた半減、2か月程度でほぼ症状がなくなり、再発予防のための運動を継続していくことで、再発がないか、あるいは再発しても症状がほとんど強く出ない方が多いような印象です。もちろん個人差はありますが、ほとんどの方がほぼ元通りに改善すると言えると思います。
慢性腰痛の自然経過
一方で慢性腰痛患者の疼痛スコアはベースライン平均51ポイントが最初の6週間後(1か月半後)で33と著明に改善がみられるが、26週後(約半年後)は26ポイント、52週後(1年後)でも23ポイントと軽度から中等度の症状が残存していたと報告されています。
私の感覚でも慢性腰痛を抱えていらっしゃる方は症状がキレイスッキリなくなるというよりかは、その症状とうまく付き合いながら、できることを増やし、活動の幅を広げることができる方法を自身独特の方法で持ちながら生活している方が多い印象を受けています。
たとえ、その症状が残存していてもその症状を自身でコントロールでき、早めの対処や日々のケアができることが重要なのだと日々感じています。
腰痛と職業の関連性について
腰痛と職業に関する日本国内の調査では、運輸業71~74%、清掃業69%、看護職46~65%、介護職63%などと報告されています。
これらに関係するように身体的負荷の大きい重労働(このほかの職業にも同等の負荷が加わるものもある)が腰痛発症の危険因子であるといえます。
腰痛と職業、身体活動に関する研究報告では、重量物を持つ作業、リフト作業(持ち上げ動作)、腰椎に屈曲ストレス・回旋ストレスを伴う身体的な動きが原因になるとされています。また、不良姿勢(無理な姿勢)の持続やそういった姿勢での作業が腰痛は必ずしも腰痛を発生させる因子ではないと報告されています。
私の感覚では、重量物の持ち上げといったわかりやすい明確な原因のこともありますが、不良姿勢やそういった姿勢での作業の継続といった原因も多くあるように感じます。無理な姿勢を継続することで、身体の各所にアンバランスを生じさせ、やがてそれが姿勢の歪みや筋力低下・関節可動域減少につながってしまうことによって腰痛を発生させていることがあります。
知らず知らずの間にストレスが蓄積し、気が付いた時には腰痛を発症しているということです。
国民病!!「腰痛」アップデートver.②についてのまとめ
今回の記事も専門的な内容が多くなり、難しく感じてしまうかもしれません。
今回の記事でお伝えしたかったことは、整形外科の医師の診察技術や検査技術などが近年にわたり飛躍的に向上したことで、今まで原因部位が特定されてこなかった腰痛に関しても原因箇所が鑑別できるようになったということです。
また、国内調査で腰痛の発症を気を付けないといけない職業も明確に報告されています。もし、それに当てはまる方がいらっしゃったら、早い目のセルフコンディショニングの確立をおすすめいたします。
腰痛が起きにくい身体を手に入れること、腰痛が起こってしまった経験がある場合は、再発しない体を手に入れる手段(セルフコンディショニング)を身につけることがはじめの一歩です。
悩まれている方がいらっしゃいましたら、まずはお気軽にご相談をくださいませ。
今回も、最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は、腰痛に対する運動療法の効果についてまとめて情報を発信したいと思います。次回のブログも楽しみにしていてください。
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